インドネシア無料給食プログラム 大量廃棄・集団食中毒連発の現実
石破首相が支援を約束したことで、日本国民から大変な反感を買っているインドネシアの無料学校給食プログラム。日本では表面的なことしか報道されていないと思うので、現地ではこのプログラムについてどのように報道されているのかについて書く。
無料学校給食プログラムは、現地では (MBG・無料栄養食プログラム)と呼ばれ、無料なだけでなく、貧困地域の学童や妊婦に栄養価の高い食事を提供して、子どもの健康増進や発育阻害の改善を図る、貧富の格差をなくす、という建前だが、これは実施開始半年も経たずしてすでに崩壊している。
ことの発端は、昨年2月に行われた大統領選挙の選挙運動で、プラボゥオ・スビアント候補がこのプログラムを看板政策として掲げたこと。経済成長、雇用創出、地域経済活性化、貧困撲滅、健康医療、さまざまな政策について質問される度に、P大統領はこの政策一本でどの問題も解決できると強調してきた。
しかし、その選挙結果は予測と全く正反対の無残な結果に終わる。一番人気と言われていた候補者は、史上最低の得票数で敗退した。結果として(どんなに疑わしい方法で勝利を決めたにしても)P大統領が当選したからには、もう問答無用で自動的に実施されるという状況にある。
”当選という形でこのプログラムへの国民の支持が確認されましたので、来年から1%上げることにします” 前政権で経済担当調整大臣だった(現政権でも継続)が消費税増税を宣言したあたりから、とんでもない政権を誕生させてしまったことを後悔するようになる。
現在は1998年の独裁政権が倒れた頃に近づいていると言われるほどの大不況が続いていて、消費税増税は何とか避けられたが、2025年このプログラムのための予算は約71兆ルピア(約43億ドル〈約6,000億円〉が確保され、予算の効率化といって他の省庁の予算が大幅に削減されれても、この不要不急な無料昼食プログラムの予算については小幅に調整されたにすぎなかった。(約70兆ルピア)
一つの調理センターから、小・中・高 複数の学校に向けて、一日何千食もの昼食が、バンやトラックで配送される。これまでの民間のケータリング業者の従来のやり方で、容量だけ大きくして開設したばかりの調理センター。安全衛生よりも、作ることで精一杯なのは、目に見えている。
調理と配送の問題もさることながら、一食1万ルピアという予算もヤバい。
材料費を削って利益を増やすなんてことは苦情さえでなければいくらでもできる。工場労働者のように自分たちで監視し、団結して苦情を訴える以外にないが、この無料給食プログラムでは、小中高校生たちは自分たちが食べさせられる昼食の質をどうやって監視することができるのだろうか?
実際、調理センターによって、弁当箱の中身と水準はまちまちなようで、それを知ることが出来るのは、学童自らがソーシャルメディアに投稿する情報しかない。ひとかたまりの野菜炒めと豆腐やテンペ、骨の方が多い鳥の揚げ物、工場で支給されるのと似たレベルのありがちなケータリングメニュー、栄養豊富とは言い難い。
調理センターによっては、おかずの代わりに市販のビスケットや紙パック飲料が入っていたりもする。お母さんの作った弁当の方がよっぽどよかったんじゃないんだろうか。
プログラム開始当初は、支給された昼食弁当が美味しくない、変な味がする、という苦情が多くソーシャルメディア上に上げられていて、”だからいったことじゃない” という感じで盛り上がっていたが、 先生から”支給された昼食の写真を撮ってはいけない” ”ネガティブなコメントを流してはいけない” と注意されたらしく学童から直接の情報は少なくなった。
”文句言わないで出されたもの食え、食わねえとぶん殴るぞ” 坊主頭に筋肉隆々、元マジシャンで現在はP大統領支持者で有名なポッドキャストの有名人タレントDが配信した動画も子供たちを恐がらせた。しかし大人たちからは、
”食べる前に異常を感じたら、食べないというのは命を守る権利じゃないのか”
何の権威があって、子供たちをしかりつけなきゃならないんだ”
という大ブーイングの嵐、
Dの人気もポッドキャストももうこれでおしまいだろうと思われたそのとき、タレントDは、国軍の戦略的な相談役のような特別なポジションを与えられて、何処へ移動するにも護衛付きという身分になる。
国にお金がない、効率化が必要だ、といいつつ、意味不明な芸能人を相談役にしたりと、給食そのものは質素だが、それを理由にした不要不急の出費は結構ユルユルなようだ。
海外視察や入れ替わり立ち代わりの学校訪問も含め、国家栄養庁というこのプログラムだけのために新設された省庁というのも訳がわからない。
Dは、問題の動画の中で、自分の息子を引き合いにだして「うちの息子ですら撮影所で出る弁当文句いったことない」といっている。彼は、無料プログラムで子供たちに配られている弁当と、撮影所で用意される芸能人とスタッフ向けの弁当の違いを全く理解していない。
大統領も大臣も、そんな昼食など食べたことも食べようとも思わない人たちが、この利権を安定させるために力をあわせてやっている。よい報告をすることが大事。真剣に子供たちの栄養や健康のためにやっているのでないことが、日々明らかになる。
ある学校の視察風景で忘れられないのは、経済担当A大臣から弁当箱を手渡されている中学生男子の写真、彼の胴回りは、大臣の胴回り8分の一、いや16分の一しかない。これが現実。これこそが、このプログラムの実態を象徴している。
”昼食無料お断り!昼食ではなくて、無料で質の高い教育を求める!”
”貧困対策に昼食を”というのが政府の建前だが、実はプログラム対象として最も重要視されている地域、パプア州では、一時期昼食無料プログラムに対する大規模なデモが連日おこなわれていた。彼らだって自分たちに本当に必要なものが何なのかはよく分かっている。
そして、起こるべくして起こっているのが、プログラム実施当初から、単発で発生していた食中毒の問題だ。開始から数カ月が経ち、発生件数もまとまってきている。4月の末には、バンドンゥンの中学校で342人が、吐き気、頭痛、嘔吐、といった食中毒の症状が出て治療を受けた。
その調理センターでは三千食もの昼食を、4つの学校に届けているが、
調理の開始は、深夜1時。小学校向けは朝9時、中学校向けは11時、高校向けは1時半、
に届けられた。
小学校では問題なし、昼過ぎに届けられた高校では、既に嫌な臭いがしていたため、殆どが手をつけなかったので助かった。被害にあったのが、微妙な時間に届けられた昼食を食べた中学生とその先生たち。
おかしな感じはしたかもしれないが、残すと叱られるという空気があるし、時間的なタイミングもあった。
症状が出るまでいかなくても
”蓋を開けたときから腐っている匂いがした”
”鶏肉が中まで火が通っていなかった”
”表面に白い虫が這っていた”
実際にそのようなことがよくあるという。
これでは栄養を満たすどころか、こんな経験を一度でもしたらトラウマになって、食べたくなくなるのは当たり前、それどころか食べること自体が苦痛になるだろう。
学校に行きたくなくなるかもしれない。
昼食は無料だが、腹をこわしたら治療は自分持ち。当たり前のことだが、手つかずで戻ってきて廃棄される量は、日に日に増しているという。
”スプーン使わないで手で食べたからじゃないの? 以前視察行ったとき手で食べてる子が3割もいるのをみたよ。手で食べるのが習慣なら仕方ないけど、手ぐらい洗わせて。食中毒じゃなくて、そのせいでお腹が痛くなった可能性もある”
”食中毒の問題はあるけれど、全体的にみれば益になっている生徒の方が多い。
割合でいえば0.005パーセント、給食無料プログラムは99.99%成功だ”
これが、最新のP大統領のコメントと演説内容。
もう滅茶苦茶だ。
こんな状況なのに国家栄養庁は、これまで350万人に支給を達成したので、
次は500万人を目指すと言っている。
でも今のところは、自国の予算で運営しているとのこと。11月には中国も支援を表明したけれど、具体的に何を支援してもらったのかもらったのかは情報がない。ほぼ全国統一で使用されている大量のステンレスの弁当箱が中国製だという噂ならある。
日本は何を支援できるだろうか?ノウハウ?技術?
こんな状況を評価することもなく、支援するというのなら、それはキックバックをもらっていますと表明したのと同じことだ。
この件に関する日本の報道をいくつか読んだけれど、”日本人の子供ですら無料じゃないのに、日本から支援金をもらってインドネシア人が無料でぬくぬく昼食を食ってる”みたいな誘導があるように思えて気になる。
事情を知っていただければ、実は、日本側でもインドネシア側でも被害者は国民であって、問題なのは支援をもちかけたり、支援にのったりする政治家なのだから、そのことにもっと焦点をあてなければならない。
”被害者同士を分裂させる” これは、インドネシアが植民地化されたときにもこの戦略が巧妙に仕掛けられていたという歴史的事実があり、非常に注意が必要だと思う。
微力ながら少しでも役に立つかもしれないことを願ってこれを書いている。
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